2018ロシアW杯が7月15日にフランスの優勝で幕を閉じましたが、開幕直前にFIFAランキングの算出方法に関する重大な変更が発表されました。
FIFAランキングは、FIFA(国際サッカー連盟)に加盟する各国代表の強さをランキング形式にしたもので、毎月発表されます。
1993年からはじまった同ランキングについては、その算出方法がこれまで3度変更されており、今回の変更で4度目となります。「2006年方式」と呼ばれる前回の算出方式には、以前からいくつかの問題点が指摘されていました。
4度目の変更では、2006年方式の問題点を修正する形で、より公平で分かりやすいランキングにするための方法が採用されています。2018年8月のランキングから新方式で発表されています。(最新のFIFAランキングはこちら)
それでは、2018年方式のFIFAランキングの決め方を見ていきましょう。
FIFAランキング【2006年方式】の問題点とは
FIFAランキング2018年方式をより理解するために、2006年方式ではどんなことが問題だったのか知っておくとよいと思います。
2006年方式でのランキングの決め方を簡単に説明します。
対象となる試合 | 過去48か月間の国際Aマッチ |
勝ち点(A) | 勝ち3点、引き分け1点、負け0点 ただし、PK戦の場合は勝ち2点、負け1点 |
試合の重要度(B) | 1.0:親善試合(小地域の選手権も含む) 2.5:大陸選手権の予選、W杯の各大陸予選 3.0:大陸選手権の本大会、コンフェデ杯 4.0:W杯本大会 |
対戦国間の強さ(C) | 対戦時のFIFAランキング 1位:2.00 2位以下:(200-相手のランキング)/100 150位以下:0.50 |
大陸連盟間の強さ(D) | 南米:1.0 欧州:0.99 それ以外(アジア、アフリカ、中南米、オセアニア):0.85 D=(対戦2国の定数の合計)/2 |
(A)×(B)×(C)×(D)×100 が1試合で獲得するポイントになります。
トータルのランキングポイントを算出する方法は以下の通り。
- 48カ月を12カ月ずつ4つに区切る1
- 直近の12カ月ごとに、上記計算式で獲得したポイントの合計を計算し、試合数で割って平均値を出す。(5試合以下の場合は一律5で割る)
- 4つに区切った12カ月のポイントの割合は、直近の12カ月から100%、50%、30%、20%とする。
- 4つの平均値に上記割合を掛けたあとに合算した数値がランキングポイントとなる。
この2006年方式は以下の問題点が生じていました。
対象となる試合
48カ月経つとそれ以前のポイントが失効するため、その都度再計算しなければならず、試合が行われなくてもランキングが変動する場合があります。
試合の重要度(B)と平均値
親善試合が多いほど平均値が下がる可能性があります。例えば、日本がアジアカップの本大会を2試合行った場合、試合の重要度は平均すると3.0となりますが、韓国がアジアカップの本大会を2試合と親善試合を1試合行った場合、試合の重要度の平均は2.33となります。結果が同じだとすれば、親善試合を行わない方が有利です。
これがいわゆる「2006年方式の穴」といわれるもので、スイス(2018.6時点で6位)、ポーランド(同時点で8位)が意図的に親善試合を避けてランキング上位をキープしていました。
対戦国間の強さ(C)と大陸連盟間の強さ(D)
欧州や南米の強豪国と対戦する機会の少ないアジア諸国は、いくらワールドカップ本大会でよい成績を残したとしても、ランキングを上げることは非常に困難でした。
対戦国間の強さ(C)に加え、大陸連盟間の強さ(D)をポイント計算の基準とされることにより、アジア内で試合をしている限りポイントが相殺されてしまうからです。
また、アジアカップは4年に一度であり、2年に一度開催されるアフリカネイションズカップや北中米カリブ海地域のCONCACAFゴールドカップに比べて高いポイントを獲得する機会が少ないことも問題でした。
FIFAランキング【2018年方式】の概要と変更点
以上のように、2006年方式には制度の穴を突いたり、アジア勢が南米や欧州諸国に比べてポイント獲得の点で不利になっていたりと、以前よりポイント算出方法に批判がありました。
これら制度の問題点を修正するために2018年方式で採用されたのが、イロレーティングという方式です。イロレーティングはもともとチェスで使われていた方式ですが、スポーツ界でも十分に確立したレーティングとして直感的で分かりやすいのが特徴です。
2018年方式の概要を説明したあと、2006年方式からの変更点について詳しく説明していきます。
FIFAランキング2018年方式の概要
2018年方式は、2006年方式の平均値を求める方式をやめ、加算方式としたことによって、計算式が単純になりました。最大の特徴は、試合の重要度を8段階に細分化したこと、試合の期待結果(相手に勝つ確率)を導入したことです。
対象となる試合 | すべての国際Aマッチ |
試合前のポイント(A) | 2006年方式でのランキングポイントを継承 |
試合の重要度(B) | 5:国際Aマッチデー以外の親善試合(※1) 10:国際Aマッチデーの親善試合(※1) 15:各ネーションズリーグ(※2)のグループステージ 25:各ネーションズリーグの最終リーグとプレーオフ 25:各大陸選手権予選(※3)とFIFAワールドカップ各大陸予選 35:各大陸選手権本大会の準々決勝までの全試合 40:各大陸選手権本大会の準決勝以降の試合 50:FIFAワールドカップ本大会の準々決勝までの全試合 60:FIFAワールドカップ本大会の準決勝以降の試合※1 E-1選手権など小地域選手権も含まれる ※2 UEFAネーションズリーグ等 ※3 AFCアジアカップ、アフリカネイションズカップ、コパ・アメリカ、CONCACAFゴールドカップ、OFCネイションズカップ、UEFA欧州選手権の6大会 |
試合の結果(C) | 勝ち:1点、引き分け:0.5点、負け:0点 |
試合の期待結果(D) | D=1 / (10^(-E / 600)+1) E=(自国の試合前のポイント)-(相手国の試合前のポイント) |
ランキングポイント(P)は、上記までに算出された値をもとに、以下の式で求めます。
※W杯や大陸選手権の本大会の決勝トーナメントで負けた場合、ポイントは引かない。
FIFAランキング2018年方式の主な変更点
順に説明していきます。
対象試合を国際Aマッチ全試合にし、平均から加算方式に
全試合を対象とすることによって、期間が限定されていた場合のポイント失効による再計算の問題点が解消されました。
また、前述のように、各試合の平均値からポイントを算出すると、親善試合を行わない方が有利になる場合がありましたが、2018年方式は単純にポイント加算方式になりましたので、親善試合を回避してランキング上位をキープするというやり方は困難になりました。
試合の重要度(B)を8段階に細分化
2006年方式の4段階に比べて、2018年方式は8段階に細かく分類されています。
これによって、以前は最大4倍の差だったのが、国際Aマッチデー以外の親善試合と国際大会の準決勝以降の試合のポイント差は最大12倍となりました。
以下の点がポイントとなります。
- 親善試合では、国際Aマッチデーで行われる試合の方を重視。
- 公式国際大会では準決勝以降の試合を重視。
- ネーションズリーグが新たに分類。
大陸連盟間の強さを廃止
アジア勢をはじめ、南米や欧州以外の地域がランキングを上げる弊害となっていた基準を廃止しました。これにより、所属する大陸連盟に関係なく、順位を上げることができるようになります。
これは日本にとっては有利に働きます。
相手との相対的な強さがポイントに反映
これは「試合の期待結果(D)」と呼ばれる部分で、D=1/(10^(-E/600)+1) の計算式で求めます。指数関数を使いますので、ちょっと計算は難しいところですが、Dの値は0~1の数字となります。Dが0に近ければ近いほど期待値が低く、勝利した場合の獲得ポイントは大きくなります。
計算方法については次の項目で具体例を使って説明します。
具体的事例で計算した結果…
事例①~ランキング下位国が上位国に勝利(ジャイアントキリング)
日本(54位)がFIFAランキング5位のウルグアイに勝利した事例(10/16)で見てみましょう。
この試合(キリンチャレンジカップ2018)は、国際Aマッチデーに行われた国際親善試合です。
日本(54位) | ウルグアイ(5位) | |
試合前のポイント(A) | 1398(9月時点)(注) | 1632(9月時点)(注) |
試合の重要度(B) | 10 | 10 |
試合の結果(C) | 1点(勝ち) | 0点(負け) |
試合の期待結果(D) | 0.289 ※計算方法は後述 | 0.711 |
(注)厳密にいうと日本は10/12にパナマに勝利していますので、計算上9月時点のポイントより積み上がっています。一方、ウルグアイは10/12に韓国に負けていますので、計算上9月時点のポイントより下がります。もっとも、分かりやすくするため、公表されている9月のポイントを使用しています。
ランキングポイント(P)は、P=A+B×(C-D)
日本のポイント:P=1398+10×(1-0.289)=1405.11(+7.11ポイント)
ウルグアイのポイント:P=1632+10×(0-0.711)=1624.89(-7.11ポイント)
(参考)Dの求め方
E=(自国の試合前のポイント)-(相手国の試合前のポイント)
・E=(1,398)-(1,632)= -234
・Dの分母を求めると、10^(-(-234)/ 600)+1 = 10^0.39+1 =3.4547…(※)
・D=1 / 3.4547 =0.289
※指数関数を求めたい場合は、こちらのサイトで以下のように入力して計算ボタンを押してみてください。
事例②~ランキング上位国が下位国に勝利
架空の例として、日本(54位)を上位国として、160位のネパールに勝利した場合を想定してみます。
日本(54位) | ネパール(160位) | |
試合前のポイント(A) | 1398 | 1004 |
試合の重要度(B) | 10 | 10 |
試合の結果(C) | 1点(勝ち) | 0点(負け) |
試合の期待結果(D) | 0.819 | 0.181 |
ランキングポイント(P)は、P=A+B×(C-D)
日本のポイント:P=1398+10×(1-0.819)=1399.81(+1.81ポイント)
ネパールのポイント:P=1004+10×(0-0.181)=1002.19(-1.81ポイント)
事例から分かること
- ランキングの下位国が上位国に勝つと、下位国は多くのポイントを獲得できる。【事例①の日本】
- ランキングの上位国が下位国に勝っても、獲得ポイントは少ない。【事例②の日本】
- 裏を返せば、上位国が負けると、多くのポイントを失う。【事例①のウルグアイ】
- 試合の重要度(B)によってポイント差が大きくなる。例えば、仮にW杯で日本代表がウルグアイに勝利したとすれば、親善試合(国際Aマッチデー)での勝利に比べて、単純計算で5倍のポイントとなる。
- これだけみると強豪国が不利といえそうですが、そもそも強豪国は勝率が高いこと、国際大会で準決勝以降に進むと高い重要度ポイントで計算されるため順位を上げやすいことから、強豪国にもバランスが取れた方式である。
まとめ
FIFAランキングの新しい決め方、2018年方式についてご紹介しました。
FIFAランキングは、W杯の予備予選の振り分け、予選の組み合わせ、本大会のシード国の決定などで利用される重要な役割を持っています。
月に1度発表されますので、ニュースでお目にかかったことがあるかと思いますが、算出方法を理解したことでまた違った視点でFIFAランキングを見られるかもしれませんね。
最新のFIFAランキングは以下をご覧ください。
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